資金調達の環境
先日このような質問をいただきました。
「クリプトの冬と言われることもありますが、なにか資金調達面(全体額や対象プロジェクトの傾向の変化)で何か特徴的なことはありますか?」
相場下落の影響についていえば、評価額が$1Bを超えるようなレイターステージのプロジェクトへの投資は少なくなっていますが、プレシードやシードの早期プロジェクトは特に投資額や数が落ちてることはなさそうです。
むしろL1に投資したVCは、そのL1のエコシステムを盛り上げなければいけないので、L1の上のDeFiプロトコルやツールにかなり積極的に投資し続けています。
カテゴリとしては様々ですが、インフラ系やセキュリティ系が増えている印象です。また前回の冬(2018-2019年)にL1の調達が増えたのと同じように、今回はL2(実行レイヤーやDAレイヤーなど)が増えていて、評価額もこれらについては高止まりしています。
またわかりやすい傾向ではないですが、2nd time founders(2回目の創業者)が増えているように思えます。たとえばLoopringの元創業者が、TaikoというzkRollupを作っていて調達しているようです。今後も、元○○創業者が作っているプロジェクトというのが増えるかもしれません(Aaveの創業チームがLensプロトコルを頑張っているのと同じような感じです)。またweb2での起業家も、クリプトに入ってきて創業し、調達するのも増えています。
さらに、2022年の上半期(2022年1月-6月)をきちんと数字で見る場合には、Messariが買収したDove Metricsが参考になり、
NFTに関していうとEthereum外のNFTプロジェクトが、Etheruem内のNFTプロジェクトより多く調達した
NFTの中では、ゲームNFTが他のNFTの4倍以上の資金を調達した
CeFi(フィンテックにクリプトを絡めたようなものや、一部スマートコントラクトを使うようなもの)の調達額が多い
ということがわかります。
■ Last Week in Crypto
Web3ニュースレタープラットフォームParagraphが、$1.7Mドルを調達しました。
Lemniscapがリードで、FTX Ventures、Binance Labs、GCR、Seed Club Venturesが参加しています。
Paragraphは、文章を書く人や、NFTコミュニティがコンテンツを収益化できるようにするプラットフォームです。NFTやERC20トークンを使い、保有者に限定してコンテンツ配信をすることができます。
自分でトークン発行ができる人は、トークンをParagraphニュースレターや記事に組み込むことができますし、自分で発行できない人はParagraphを使ってトークンをミントするという選択肢もあります。このときParagraphは5%の手数料をとって収益化する、というビジネスモデルになっています。
このニュースレターをSubstackで配信しているものとしては、試さずにはいられないサービスなので、実際に触ってみると、MirrorとSubstackの良いところどりをしたようなポジションを目指しているように感じました。
するとやはり明確にこの2つを意識しているようで、比較表も用意されています。
Substack vs Paragraph
Mirror vs Paragraph
書き手としては、まだ使い勝手がSubstackのほうが良いので、乗り換えるほどではありませんが、利用者の視点から今後も注目をしておきます。
またParagraphはすでに、分散型ソーシャルメディアのFarcasterと連携をしています。
2.Stanford undergrads raise $3.3 million for their Notebook Labs protocol
IDスタートアップのNotebook Labsは、$3.3Mドルを調達しました。
Bain Capital Cryptoがリードで、Y Combinator、Soma Capital、Abstract Ventures、Pioneer Fund、NFXなどが参加しています。
Notebookはゼロ知識証明を使ったプライバシーのプロジェクトで、匿名KYCをすることができます。つまりユーザ自身が情報、IDを保持しながら、必要な情報だけを第三者に共有してアプリを使用できるようになります。
プロトコル側(スマートコントラクト)は、Notebookのログイン技術を使うことができます。
そうすることで、例えば「DAOがプライバシーを保護しながらユーザーの身元を確認して、より低い担保でローンを提供する信用スコアシステム」も実現できるようになります。
Notebook Labsは、このような信用スコアシステムや他のプライバシー関連のプロダクトを来年にローンチ予定です。
現在稼働しているプロダクトは、匿名KYCによって複数アカウントのエアドロハンターを防ぐことができるようです。
去年ビットコイナー反省会とのコラボ企画の中で、将来はゼロ知識証明を使ったKYCでエアドロハンター対策をするようになるかもと想像で話した記憶があるのですが、そういう流れになるのかもしれません。
3.Kollider Raises $2.4M to Build ‘Lightning-Native’ Financial Products
ビットコインデリバティブの取引所Kolliderは、$2.35Mドルを調達しました。
Lemniscapがリードし、Castle Island Ventures、Polychain Capital、Alameda Ventures、Pfeffer Capital、Okex、などが参加しています。
Kolliderは、「Lightningネイティブなデリバティブ取引所」と自称していますが、ビットコインを担保とする合成ステーブルコインや、ライトニング対応のビットコインウォレットの開発もしています。
ライトニングネイティブの取引所とは何かというと、ビットコインを取引所にデポジットをする必要なく、(ライトニングネットワークを使って)ウォレットから直接ポジションを作ったりクローズできるようです。
ビットコインを担保にした合成ステーブルコイン
また合成ステーブルコインについては、アカウントに1ビットコインをもっていたら、同じ価値(1ビットコイン)分のショートポジションをとることで、価格変動に対してニュートラルにし、それを担保に合成ステーブルコインを発行することができるという機能です。
そのため、ビットコインをショートできる先物市場があれば、どんな法定通貨に対してもペグでき、例えばBTC/EURの先物市場があれば、ユーロにペグする合成ステーブルコインを作ることができます。
以前Bspeak!で書いたGaloy社の「Stablesats」という機能と同じという認識です。Stablesatsの場合は、裏でウォレットがビットコインを担保にOKXでショートするというものでした。
徐々にではありますが、ライトニング関連のプロジェクトの調達も増えてきています。
4.Zoop teams up with Ready Player Me, raises $15 million
有名人のデジタルグッズを取引するプラットフォームZoopが、$15Mドルを調達しました。投資家については明らかになっていません。
Zoopは、プラットフォームで発生した収益の70%を有名人に支払うとしています。
またアバター企業のReady Player Meと提携することを発表していて、複数のメタバースやゲームで、Zoopの有名人アバターを使用できるようになります。
Ready Player Meについては、今年の1月3日号に書きましたが、「どの仮想空間でも使い回せるアバター」を作れるようにすることを目指していて、バーチャルファッションの相互運用性のレイヤーです。
5.Former Uber employees back new startup raising $9 million to decentralize ridesharing
分散型ライドシェアを開発するDEC(Decentralized Engineering Corporation)が、$9Mドルを調達しました。
投資家には、Foundation Capital、Road Capital、6th Man VenturesといったVCや、Uber初期の元社員Ryan McKillen氏などが参加しています。
DECは、Solana上で、モビリティ系アプリに使用できるプロトコル「Trip」を開発しています。そしてこれを使った最初のアプリとして、分散型のライドシェアリング「Teleport」を発表しました。
分散型Uberのようなもので、
運転手は、経済的なアップサイドを得られ、ガバナンスに参加することができ、
乗り手は、仲介者がいないので安く利用でき、高く払えば早く乗ることができ、
アクティブな運転手や乗り手には、ネットワークから報酬(それに紐づくガバナンス権)を与える
という構造のようです。
来週からSolanaのイベントがLisbonで行われますが、そこで一部利用できるようにする予定になっています。
6.Blockchain Security Company Hexens Raises $4․2 Million in Seed Funding Led by IOSG Ventures
セキュリティのプロジェクト Hexens は、$4.2Mドルを調達しました。
IOSG Venturesがリードで、Delta Blockchain Fund、ChapterOne VC、Hash Capital、ImToken Ventures、Tenzor Capital、Polygonなどが参加しています。
Hexensはセキュリティ監査をしていて、ゼロ知識証明や新興の暗号技術など複雑なものに対応することを売りにしています。あえて簡単なプロジェクトはうけずに、複雑なプロジェクトをメインに監査しているそうです。
またセキュリティ監査以外にも、Hexensはハッキングの調査や対応をしていて、過去9ヶ月の間に複数のハッカーを見つけ、累計で$13Mドル分のトークンを元の所有者に返したという実績があります。
7.Thala Raises $6m Seed Round to Build DeFi Suite on Aptos
Thala Labsは、Aptos上でDeFiプロダクトを開発するために、$6Mドルを調達しました。
ParaFi Capital、White Star Capital、Shima Capitalが共同リードし、Beco Capital、LedgerPrime、Saison Capital、Infinity Ventures Cryptoなどが参加しています。
Thala Labsは MOD(Move Dollar)という分散型ステーブルコインを開発中です。またステーブルコイン単発ではスケールしないため、AMMも同時に開発しているとのことです。
8.Race Capital leads Aptos wallet Martian’s $3 million raise: Exclusive
同じくAptosチェーンに関連しますが、AptosのウォレットであるMartianが$3Mドルを調達しました。Race Capitalがリードで、FTX Ventures、Superscrypt、Jump Capital、Aptosなどが参加しています。
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