Ethereum L2 の盛り上がり
本文にも登場しますが、Ethereum L2が盛り上がってきています。実際Arbitrumをつかってみましたが、やはり処理が速いとストレスなく利用することができます。
L2は、「手数料が低い」というコスト面でのメリットが大きいと思いますが、「ユーザ体験が良くなる」という利点も同じくらい大切だと感じます。このあとは L2間の流動性の融通や、L1/L2のブリッジなどが次のテーマかと思います。
Tempusの概要とアンバサダー・プログラム
今週分の最後は、Tempusについて書きました。後述するアンバサダー・プログラムでは、NFTのレア度に応じて、Tempusの流動性マイニングの報酬が増えたり、Tempusトークンに交換できるというのが新しいので、ぜひ読んでみてください。固定利回りや liquid stakingは、Sense、Element、Yield、Tranchessなどが立ち上がりつつあるので、競争が激化していきそうです。
■ Last Week in Crypto
1.Interoperability Startup LayerZero Comes Out of Stealth With $6M in Funding
LayerZeroが、Multicoin CapitalとBinance Labsなどから$6Mドルを調達したことを発表し、ステルス状態から脱却しました。他にもDefiance、Delphi Digital、Robot Ventures、などが参加しています。
LayerZeroは、ブロックチェーン間の互換性を解決するプロジェクトです。
既存のブリッジの方法
異なるチェーン間でトークンを移動するブリッジには、大きく2つの方法があります。
1つの方法は、チェーン間にネットワーク(Middle chains)を挟むことですが、最近のPolyNetworkのハッキングのように、悪用されやすい単一障害点を作ってしまう可能性があります。またそれらを信頼する必要があり、持ち逃げのリスクもあります。
もう1つの方法は、オンチェーンのライトノードを使って、ペアになっている各チェーンのブロックヘッダーを検証する方法です。より安全ですが、Ethereum上では非常にコストがかかります。1日あたり数千万円のコストがかかるとも言われています。
LayerZeroのアプローチ
LayerZeroは、後者のやり方をコストを低くしながら実施します。オンチェーンのライトノードと同じように検証をしますが、すべてのブロックヘッダーを取得するのではなく、オラクルによって必要に応じて取り込みます。
これをするために、「ブロックヘッダー」と「トランザクション証明」を組み合わせて検証をします。LayerZeroのノード間で、
1)オラクルを使って、「ブロックヘッダー」をブリッジ先のチェーンに伝え、
2)リレーヤーを使って、「トランザクション証明」をブリッジ先のチェーンに伝えます。
現状は、ChainlinkとBand Protocolをオラクルとして利用していますが、この2つ以外のオラクルも利用できるように設計されています。
また、まだ公開された情報がありませんが、ブログ記事には『オープンなリレーヤーネットワーク』とあるので、誰でも許可なしでリレーヤーになることができ、オフチェーンで証明を送る仕事の対価に、報酬を得る役割といえます。
セキュリティ
オラクルとリレーヤーで責任を分担することで、万が一の攻撃された際の被害を抑えることができます。
まずLayerZeroへの攻撃のためには、Chainlink のDON(分散型オラクルネットワーク)を打ち破る必要があります。それだけでも困難ですが、仮にオラクルを突破できたとしても、リレーヤーと共謀する必要があり、さらに攻撃は難しくなります。
最悪のシナリオで、あるオラクルAが突破され、あるリレーヤーAと共謀したとしても、その組み合わせ(オラクルA + リレーヤーA)を利用しているアプリだけが影響うけるため、Polynetworkの事件のように資産が全部もっていかれるリスクがない作りになっています。
ユースケース
ZeroLayerのようなクロスチェーンのメッセージングは、トークンのブリッジだけでなく、ステートの共有や、トークンの貸し借り、スワップ、ガバナンスなどの利用用途があります。
例えばSushiSwapは色々なチェーン上で利用できますが、それぞれは同期しているわけではありません。LayerZeroを使用した場合は、SushiSwapはすべてのクロスチェーンペアに対して単一のインターフェースとコードを持つことになります。そして全チェーンでの統一された流動性を実現することも可能になると思います。
今後
LayerZeroは現在監査中で、今年の第4四半期の早い時期にローンチする予定になっています。セキュアなブリッジで、EVMと非EVMの境界を越えることができるため、必要とされるインフラになるかもしれません。
2.Crypto Media Company Forefront Raises $2.1M to Cover World of Social Tokens
ソーシャルトークンやDAOを取り上げるメディア兼コミュニティの「Forefront」が、$2.1Mドルを調達しました。1kx、MetaCartel Ventures、Scalar CapitalなどのVCやエンジェルが参加しています。
Forefrontはソーシャルトークンをキュレーションするところから始まっていますが、現在は、価値観に合ったコミュニティを見つけられるようにすること、またコミュニティを支援することを目的としています。
具体的にはメディアサイトとニュースレターを配信していて、それに関連するクローズドなDiscordチャンネルも運営しています。参加には1000 $FFトークンが必要になっていて、現在の価格だと約$5,000ほどになります。
最近ソーシャルクラブのようなコミュニティやDAOが流行ってきています。英語圏で話題のFWB(Friends With Benefits)は、a16zからの資金提供を受けて、最近$100Mドルのバリュエーションになっていますし、Rallyのソーシャルトークン発行者は最近かなり増えています。
3.Polychain and 3AC lead $230 million investment in Avalanche
Avalancheが、機関投資家を対象としたトークンセールで$230Mドルを調達しました。PolychainとThree Arrows Capitalがリードして、Dragonfly、CMS Holdings、Collab+Currency、Lvna Capital、エンジェル投資家やファミリーオフィスなどが参加しています。
資金の用途は、DeFiとエンタープライズツールの開発、Avalancheの上プロジェクトへの助成金や投資、トークン購入などに利用される予定になっています。
トークンによる投資
この$230Mドルの投資は、株式ではなくAvalancheのネイティブトークンAVAXを購入しています。ロックアップ付きらしいので、特に公開はされていませんが、市場価格よりもディスカウントされた条件なのだと思います。
$180Mの流動性マイニングプログラム Avalanche Rush と、今回の大規模な調達をうけて、AVAXの価格は上がっています。PolygonやSolanaの流行りに乗れなかったユーザが一部Avalanchに流れてきているように思えます。
4.Arbitrum Vaults Onto Layer 2 Leaderboard as DeFi Assets Cross $2B
EthereumのL2ネットワークであるArbitrum上の資金が一気に増えてきました。L2Beat をみるとわかりますが、8月31日にローンチして以来増え続け、$2.6 Billion の価値がのっかっています。
ちなみにこの増加に最も貢献しているのが、ArbiNYANというミームプロジェクトで、一時は$1.5 Billionドルほどになっていたようです。ローンチ以来激しい値動きをしていて、$0.003ドルから$7ドルまで上昇し、今は$0.4に下落しています。
また、同じくL2のOptimismは、より慎重な展開をしていて、まだ$230Mにとどまっています。今年の後半は、L2プロジェクトが盛り上がり、利用が大きく進みそうです。
5.Dapper Labs Leads $5M-Plus Seed Funding Round for Music NFT Platform RCRDSHP
エレクトロニック・ミュージックのNFTプラットフォーム RCRDSHP が、$5M以上のシード資金を調達したと発表しました。
Flowブロックチェーンを開発するDapper Labsが投資ラウンドをリードしています。このことからも分かる通り、RCRDSHPは、Flowブロックチェーン上で稼働します。アーティストやフェスに関連する、手頃な価格のコレクターアイテム(NFT)のパックをリリースする予定になっています。
最新のパックは、アーティストの写真とアートを組み合わせたもので、数分で8888パックが完売したようです。
6.A16z-Backed TrustToken Acquires EthWorks
TrueFiやステーブルコインのTUSDを運営するTrustTokenが、開発企業EthWorksを非公開の金額で買収しました。
TrustTokenは最近a16zやAlameda Researchから$125Mドルの資金を調達していますが、それを今回のEthWorksの買収に充てたそうです。
EthWorksは、買収される前から1年以上もTrustTokenと連携して開発をしていたようですが、今後は同じ組織として、WaffleやuseDAppなどのオープンソースプロジェクトを進めていくことになります。
7.Zero-Knowledge Credit Risk Platform X-Margin Raises $8M
X-Margin が、Coinbase Ventures、HashKey Capital、Spartan Groupなどから$8Mを調達しました。X-Marginは、お金の借り手が、ポジションなどの機密情報を保持したまま、自分のリスク指標(証拠金使用率など)をリアルタイムで貸し手に共有することができます。何度かこのメルマガで触れたことのある、ゼロ知識証明(ZKP)という秘密共有の技術を使っています。
貸し手に対して、ちゃんと責任ある行動をしているよ、と見せることができるため、貸し出し条件を良くする交渉ができます。貸し手側としては、リアルタイムの可視化された情報を得ることができます。
8.Introducing the Tempus Sers Ambassador Program
Tempusがアンバサダー・プログラムを発表しました。今月テストネットのローンチを予定していて、その後数週間でメインネットのローンチも予定しているので、プロジェクト概要を書いていこうと思います。
最近 LemniscapやDivergence Venturesなどから $1.9Mを調達し、LidoのグラントやBalancerグラントをうけたことも発表しています。
概要
Tempusは、変動する利回り(イールド)の機会を、取りたいリスクに合わせて最適化できるプロトコルを作っています。
具体的には、利回りを得ることができるstETHなどのトークンを、原資産の価値をもつトークン(プリンシパル)と利回り(イールド)という2つのトークンに分割し、ユーザがこれらを取引できるようにするための独自AMMを開発しています。
簡単な図を自作してみましたが、これによって何が嬉しいかというと、
固定レートでのイールドファーミング
レバレッジをかけたイールドファーミング
stETHやcDAIなどの流動性提供者となり、通常のイールド + LP報酬を得る
金利や利回りの変動に対するトレードができる
といったことが可能になります。
特に、機関投資家を中心にETHステーキング(Eth2.0)の需要が増えていて、その中でもLido上のステーク量が増えていることを考えると、「ETHステーキングに上乗せで利回りが増える選択肢」や、「固定利回りでETHステーキングできるという選択肢」は需要がでるかもしれません。
※Lidoが ETH2.0のステーキングの中でも人気があることは先週で書いた通りです。
Tempusの仕組み
それでは「ETHを持ちながら、高い利回りを得たい」という人が、Tempusを利用して、ETHステーキング + 流動性提供する例を見ていきます。
以下はLidoを利用した場合の例になります。実際にはユーザが意識する必要がないように、1つのトランザクションにまとめられ抽象化されます。
ステップ1:ユーザーがETHをTempusに預ける(任意)
ステップ2:Tempusが、LidoにETHを預け、stETHを受け取る
ステップ3:Tempusが、プリンシパルとイールドという2つのトークンを発行する
ステップ4:Tempusは、この2つのトークンの一部を流動性提供者としてTempusAMM(後述)に預ける
※ステップ1が任意なのは、直接Lidoを利用してstETHを受け取ることも可能だからです。
2つの収入源
そして上記の結果、流動性提供者は プリンシパル or イールドのトークンに加えて、Tempus LPトークンを受け取ります。ここで TempusのLPトークンの保有者は、以下2つの収入源を得ることができます。
元となるプロトコルからの利回り(この場合はETHのステーク報酬)
Tempus AMMからのスワップフィー
Tempus AMMのスワップフィーとは何かというと、将来のイールドの変動をヘッジしたり、イールドを取引したりするユーザが、AMM上で払う手数料になります。
流動性提供の柔軟性
流動性提供は、ETHなどの原資産トークンだけでなく、stETHなどのような合成トークンも預けることができるようにしています。
また引き出しについても柔軟で、USDCやcUSDCを選んで引き出しができ、かつ満期まで待つ必要はなく、いつでもプールから引き出すことができるようになります。
アンバサダー・プログラム
さて、プロジェクト概要が長くなりましたが、冒頭で書いたように先週アンバサダー・プログラムが公開され、誰でも応募することができるようになっています。毎週ミッションがDiscordチャンネルで発表され、コンテンツをつくったり、疑問やメッセージに答えたり、新しいアイデアを提案したり、様々な形で貢献することができるそうです。参加することのメリットは、以下のように記載されています。
メリット① NFT
合計11,111個の供給のNFTが発行され、毎週ミッションを達成したアンバサダーが、その週に割り当てられた分を受け取ることができます。このミッションは、メインネットのローンチまで続きます。NFTはマーケットプレイスで取引できるだけでなく、
コアチームが設定した価格でTempusトークンに交換できる
保有するNFTのレア度に応じて、Tempusの流動性マイニングの報酬が増える
いい感じのプロフィール写真になる
という利点があるそうです。
メリット② VIPアクセス
DiscordのVIPチャンネルにアクセスでき、アンバサダーの意見や提案は、最優先事項として扱われます。そしてコアチームがTempusの最新情報を共有し、フィードバックを得ることができるそうです。
記事によれば、9月12日の週に最初のミッションが出されているそうなので、興味がある方は応募してみてはいかがでしょうか。
参考:Tempus AMMが、他のAMMと異なる点
AMMの特性については、少し細かくなりすぎるので、参考として載せておきます。
TempusのAMMは、Uniswap v2のようなシンプルな式のAMMではなく、時間によって変わる経済側面を考慮しています。
上で見てきたように、ユーザーは stETH (Lido の Staked ETH)などのトークンを預けることができますが、このとき満期を選んでコントラクトに預けます。そしてstETHは、プリンシパルとイールドという2つのトークンに分割されます。
イールドは、時間とともに価格が上がっていき、満期日の時点でイールドがすべて獲得された価格になります(ゼロクーポン債)。
プールの開始時にはイールドの価値は正確にはわかりませんが、時間の経過とともにプールに発生している利回りの正確な価値を確認することができ、満期日を迎える頃には価値がわかるようになります。
満期という時間的側面があるため、AMMは以下の2つの特性をもつ必要があります。
満期から遠いときは、市場がプリンシパルとイールドの間の価格を動かすようにしたいので、Uniswap v2のように、x * y = k の式で計算されるように取引したい
満期に近いときは、単純な x * y = k の式ではなく、プール内の残高の影響を受けにくく、実際に発生している利回りに近い形で取引を行いたい
そこでTempus AMMは、Balancer v2 の Stable pool を利用して、時間によって調整されるパラメータが含められています。
このパラメーターの値が小さい場合、つまり満期が遠いときには、Uniswap v2のように積が一定の式で取引され(x * y = k)、
このパラメーターの値が大きい場合、つまり満期が近いときには、和が一定の式に近づいて取引されます(x + y = k)。
つまり満期が近くなるにつれて(x * y = k)から(x + y = k)に変化していき、式に基づいて取引されるAMMになります。
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