■ Last Week in Crypto
1.Proposing Bancor v2.1: Single-Sided AMM with Elastic BNT Supply
Bancor が新しいAMM設計のバージョンを発表しました。このバージョン(Bancor v2.1)では、
a) 流動性提供による損失(impermanent loss)をカバー
b) 片面の流動性提供
が可能になり、現状のAMMの課題を解消できる予定です。どうなっているか、見ていきましょう。
## 片側提供のニーズ
なにか任意のトークン、例えばETHの流動性を提供して手数料をゲットしたいとします。
もしUniswap上で流動性を提供すると、ETHと別のトークンの*両方*を提供する必要があるので、例えば20万円分のETHを持っているユーザは、ETHを半分売って、例えば10万分のETHと10万分のDAIにしてから、ペアで流動性提供をする必要があります。
しかし、長期的にETH価格が上がると信じているので、ETHだけ持って流動性提供したい人もいるでしょう(またはその逆で、価格変動を嫌い、DAI保持しながら流動性提供したい人もいるでしょう)。そこに片側の現物保有のみをしつつ流動性提供したいというニーズがあります。
## Bancorのアプローチ
ここで、Bancorv2.1のモデルでは、ユーザが片方のみ(上の例でいうとETHのみ)をデポジットできます。そしてBancorプロトコルが自動で、提供されたETHの金額にあわせてBNTトークンをステークします。
そしてユーザは提供したETHは、スワップ手数料を得ることができます。
そしてプロトコルが提供したBNTも、スワップ手数料を得ますが、一部が Impermanent Loss(IL)を補填するためにこのユーザに渡ります(ILカバー)。
※図では、任意のトークンをTKNとしています
流動性を提供している期間が長いほど、このimpermanent lossからの保護(ILカバー)を多く得ることができ、なるべく長く流動性が提供されるようにインセンティブが装備されています。これによって、片側流動性提供を実現しつつ、impermanent lossから流動性提供者を保護します。
そしてユーザが流動性提供をやめてETHを引き出したときは、BancorプロトコルがステークしたBNTはバーンされます。
これを実現するために、BNTは「供給量が都度変わるトークン」へと変更されるため、新しくvBNTというガバナンス用途のトークンが導入される予定になっています。BNTがステークするとvBNTトークンを得ることができ、他のガバナンストークンと同じように「投票権 + プロトコル手数料の配分権利」となります。
## 最近のAMM
「なにかの変数に応じて供給量を変える」という elastic supply のアプローチを工夫して利用しています。そもそも最近流行っているクリプトのAMM自体もBancorが元祖であり、彼らの斬新なアプローチは称賛に値します。
ちなみにAMMの話でいうと、先週 0xのファウンダーWillがツイートし、「自動マーケットマイカー(AMM)で交換した時と、人間マーケットメイカー(MM)で交換した時の手数料の違い」を図で説明しました。
最近出てきてるAMM(DODO, Bancor v2, CoFiX等)は、外部のオラクルを使って(ChainlinkやNEST等)から価格情報を都度とってきて、効率的にプール資産を交換しようとします。そう考えると、『アルゴリズムが洗練された人間MMに近づこうと工夫している構図』とも見れます。
Lidoというプロジェクトが発表されました。Ethereum2.0への移行にあたり、ETHステーキングの障壁を下げようとするプロジェクトです。ETH2.0の移行とステーキングには大きく2つの課題があります。
## 課題1:フェーズ0でETHステーキングするとしばらく利用できない
Ethereum 2.0への移行のフェーズ0が、数週間後にリリースされようとしていますが、ここでETHをステーキングしたユーザは、ETHを移動したり、取引したり、担保として使用したりすることはできません。そしてEthereum2.0への進捗によってはその状態が2,3年続く可能性もあります。
現在は(経済的に)魅力的なDeFiの選択肢がでていますから、もしDeFiにETHを使うことが優先されてステーキングがされなくなると、2019年12月9日号の6番目で書いた状況と同様になります。つまり経済合理的なホルダーは、オンチェーンのレンディングなどでより高い利回りを稼ぐことができた場合に、ステーキングをせず別の選択肢をとり、ステーキングをする人が少なくなり、Ethereum2.0のセキュリティは低下し脆弱になってしまいます。
## 課題2:ステーキングが32ETHごとしか参加できない
またステーキングは32ETHごとにロックして参加になるため、5ETHを所有していてステークキングに参加したい人は一人ではできません。また、45ETHを所有している人は、そのうち32ETHしかステークすることができません。
そこでLidoでは、1)ステークされたETHを流動性のあるものにし、2)どの量のETHでも参加できるようにする、という姿を目指しています。
Eth2.0へのステーク(Ethereumビーコンチェーン上のETHをステーク)する際に、Lidoを使用すると、同数の 『bETH』というトークンを受け取ります。これが Ethereumビーコンチェーン(Eth2.0)上のETHを表すトークンになります。
Eth 2.0でステーク報酬を生成されるとbETH残高が増加し(1日1回更新)、ETH 2.0で受け取ったステークス報酬を利用できます。
そしてETH2.0に移行するまでの間 bETH は、現状のEthereum上でETHと同じように、交換したり担保にしたり、使用できます。ETH 2.0で取引が可能になると、ユーザーはbETHをETHに交換することもできます。
つまりステーキングのためにロックしても、bETHをETHと同じように利用でき、プールにするので、32ETH をもっていなくてもステーキングに参加できるということになります。詳細やタイムラインは数週間後にアップデートがあります。
このLidoと並んで、Rocket Poolのようなプロジェクトもあります。最近ではRPIP-003という提案がされ、RPL報酬によってバリデータとステークホルダーにインセンティブが与えられます。
3.Bitcoin is Coming to Polkadot
Polkadot上のBTCトークン「PolkaBTC」が、2021年第1四半期にPolkadot上でリリース予定と発表がありました。
ビットコイン(BTC)を1:1で担保に発行され、Ethereum上でいうwBTCなどと同様です。違うのは、Polkadot上で『BTC-Parachain』というチェーンが稼働する点です。基本的にはコミュニティがノード運営し、手数料を得ることができます。
PolkadotのDOTトークンを、これらのノードにステークすることでVaultになることができます。VaultはBitcoin上でBTCをホールドする役割です(BTC Relayというクロスチェーンのクライアントを利用します)。あくまでPolkaBTCはBitcoin上のBTCを担保に1:1で発行されますが、そのBTCを管理するのにDOTがステークされます。
上でwBTCと同様と書きましたが、構造自体はEthereumでいうところの renBTC のデザインにもっと近いです。BTCがrenVMの分散ネットワークに預けられてrenBTCが発行でき、そのノード運用にRENトークンがステークされているのと同じデザインです。
PolkaBTC → BTCにするには、BTC-Parachain上でPolkaBTCトークンをバーンする必要があります。もしくは、その時のレートでPolkaBTC → DOTへ変換することもできるようになります。
Web3財団からグラントをうけているInterlayというスタートアップが開発していて、テストネットが2020年11月-2021年1月に予定され、メインネットのローンチは2021年第1四半期に予定されています。
2017年のホワイトペーパー時点からBTCとのブリッジは当然提案されていたので新しい動きではなく、Ethereumとのつなぎの役割を果たすチェーンも近々現れる予定です。
ちなみにInterlayのチームはPolkaBTCの他に、クロスチェーンのビットコインオプションおプラットフォーム「XOpts」も開発中です。XOptsは2021年第1四半期にEthereum上でローンチを予定していて、その後、Polkadotや他チェーンに拡大予定です。
4.Crypto-driven marketplace Zora raises $2M to build a sustainable creator economy
ファッションやアートなどをトークン化し、売買ができるプラットフォーム Zora が$2Mを調達しました。Kindred VentureやCoinbase Venturesが本ラウンドに参加しています。
Zoraを利用すれば分かりますが、物理的なモノが、デジタルなトークンとして掲載され、ボンディングカーブとしてその価格が表現され、新たに購入されるたびに価値がアルゴリズム的に変化するというものです。
こういうのを触っているとやはりEthereumを始めとするスマートコントラクトは、状態を維持するという性質から、『価格発見のための世界共通プラットフォーム』とも言えます。
5.Stone Ridge Reveals $115 Million Bitcoin Investment As Part Of Billion-Dollar Spinoff
先週SquareがBitcoinを購入した話題について書きましたが、それに続いて、資産運用会社Stone Ridge Holdings Groupが 1万BTC(現在約$115Mドル)の投資していることを明らかにしました。この企業はクリプト子会社ニューヨーク・デジタル・インベストメント・グループ(NYDIG)のために$100Mドルを資金調達しようとしています。
それ以外にも先週はBitcoinの強気の指標や兆しが色々と明らかになりました。例えばJPモルガンは、Squareのビットコイン購入のような投資は、ビットコインに対する「強い自信の表れ」であり、他の決済会社も同様の市場に乗り込む可能性があり、そうでなければ取り残されるリスクがある、と発言しています。
また、Grayscale Investmentsは、2020年第3四半期のレポートを公開し、同社の商品に合計10.5億ドルの資金流入があり過去最高の四半期を記録しています。今年の合計は現時点で24億ドルとなっており、2013年から2019年の総資金流入の2倍以上となっています。
OTC市場を見ると、Squareのニュースを受けて、OTC交換の需要が、DeFiトークンから安定した暗号資産(BTCとETH)に戻っていることがわかります。
さらにFidelityが10月のBitcoin投資レポートを出しましたが、10BTC未満のビットコインを保有するウォレットの数が増加していることを示し、一般投資家のBitcoinへの関心が継続していることを強調しています。
フィデリティはまた、1~3%をBTCに配分した仮想ポートフォリオの年率リターンを示しています。それによると、ビットコインの価格が70%下落した2018年でも、定期的なリバランスを行えば、2018年の初めに3%のビットコインを設定したポートフォリオは、ビットコインを設定していないポートフォリオを1.1%アウトパフォームしていたことがわかります。
そして、2015年1月から2020年9月までの間、そのBTC入りポートフォリオは、ビットコインのないポートフォリオを29%アウトパフォームしていることを示しています。
※レポートでは、ビットコインの歴史的な加速度的なリターンは今後継続せず、代わりにより安定したパフォーマンスを出す期間に入る可能性がある、としています。
またマーケットアナリストのWilly Woo氏は、ビットコイン投資のトレンドをツイートしています。取引所(Gemini, Kraken, Coinbase)において、過去8ヶ月間で25万BTCが減少していることを示し、他の大口投資家が投資し始めた(アナウンスしていないだけ)という可能性を示唆し、SquareとMicroStrategyのビットコイン購入が氷山の一角に過ぎないと主張しています。
先週も触れましたが、ここ最近EthereumのスケーリングのためにL2の開発が一気に進んでます。そしてCoinbase Walletが Optimistic Rollupテストネットに統合されました。
Coinbase Walletはウォレットかつdappブラウザ(スマートコントラクトを使ったアプリの入り口)ですが、この統合により、Optimismのレイヤー2テストネット上で残高の確認や取引の送信が可能になります。
L2のスケーリングに関連したところでは、zkRollupという技術を使用したDEXであるLoopringも、デポジット価値があがっていて$17Mドルにもなっています。その他に関連でいうと、Aztecがプライバシーに特化したzkRollup L2をリリースし、ERC20トランザクションがデフォルトでプライバシーを保ったまま処理され、検証のみオンチェーンで実施されます。
7.Boardroom Raises $2.2M for Blockchain Governance Toolset
Boardroomがガバナンスツールの開発のため、$2.2Mを調達しました。Standard Cryptoが主導し、Variant、CoinFund、Framework、Slow Venturesが参加しています。
Boardroomは異なるプロトコルの意思決定に参加できるアグリゲーションツールになっていますが、意思決定権利を集約して政党のようにメタガバナンスができるPowerPoolなど、DeFiプロトコルとガバナンストークンが増えてその上のレイヤーにも少し投資が集まっています。
もしかしたら、トークンを介してコミュニティのインセンティブや意思を調整するというガバナンスは、DeFiでうまくいけば今後クリプト関係ない他のOSS系ソフトウェアでも使われるかもしれません。
8.SkyDB: A Mutable Database for the Decentralized Web
分散型クラウドストレージ・プラットフォーム「Sia」を構築しているブロックチェーン企業のSkynet Labsは、ソーシャル・メディア用のプラットフォーム「SkyDB」の提供を開始しました。ユーザが分散型アカウントを作成し、そのアカウントにデータを保存し、どこからでもアクセスできるようになります。
予測市場のプラットフォームPolymarket は、クレジットカード対応、メールアドレスでのログイン対応、そしてレイヤー2に移行をしました。 また面白いのは、Polymarketの現状の予測市場は、クリプト系以外の予測市場が多くリストされています。
10.Filecoin Launch Finally Brings $200M ICO to Fruition
ファイルストレージを共有・提供する分散ネットワークFilecoinのFILトークンがローンチしました。2017年のセールで$257Mを調達し、3年越しのローンチです。取引所がリストして売買が可能になってから、1トークンあたり$100ドルを超え、現在は$45あたりに落ち着いています。時価総額もTOP30あたりになっています。
このプロジェクトは、Sequoia Capital、Andreessen Horowitz、Union Square Ventures、Winklevoss Capitalなどが初期に出資しています。FILトークンは、ファイル共有とストレージを提供する分散型ネットワークのインセンティブに使われ、安価かつ検閲に強いデータ保存方法になることを目指しています。
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